Review

こっちに暮らし始めて半年経った。来て一ヶ月して仕事を辞めた時、せいぜい三ヶ月で帰国だな、って思っていたのを思い出した。今日までこうしてこちらで生活を続けているのも、手違いで1年ビザを取得してしまった事に始まるのかもしれない。ついこの間まで、自分の意思でもって自分の人生を決めていくものだと確信していたが、そうでもないのが人生のようだ。流れにのっかって生きてみるのも悪くはない、かもしれない。

こちらに来て知り合った日本人女性が、来月一年間の滞在をもって帰国するそうだ。とにかくこちらでの生活や仕事、この国の全てに対して強烈な不満とストレスを持っている人だったので、それが一番良い選択だろうな、と口には出さないが私はそう思っている。ただ、日本に帰ったからといってこの女性の不満とストレスの塊が消えてなくなるかは不明。海外志向が強い人だったので、今度は日本がなじめない面白くない、と新たな悩みの種が出てくるのではと想像してしまう。他の国にも少しだけ住んだ経験があるそうだが、それも全て不満が爆発して帰国しているのだから。

この女性は自分の考えを押し付ける節があった。それが自分自身を苦しめてしまったのではなかろうか、と推測する。人生を左右することでもないほんの些細なことにも、自分の意思を通そうとすると、いい結果は得られない、と今の私は悟っている。諦めて流れに身を任せ、相手のやりたいことを見届ける、そうすると巡り巡って案外上手くいくものだとこちらに住んで学んだ。

 

ここは、自分の意思ではどうしようも出来ない経験をしてきた人たちから成り立っている国だ。ここでいう経験とは戦争のことで、戦争が終結し平和になったかというと、当てはまらないその日暮らしの人たちが大勢居る、と思う。戦争時代と比べれば平和になったかもしれないし、幸せな家族もいるかもしれないし、人によって幸せの尺度はバラバラではあるが、やっぱり先進国と比べものにならない悲惨さがそこらへんに転がっている。

バイト先へ向かう途中にあるゴミ収集場は、強烈な悪臭の中で素手で生ゴミやら何やら分別する人たちが朝早くから働いている。それまた近くには朝から宝くじを売る障害を持ったおじいさんやらおばあさんやら。それから真っ黒に日焼けした、安い賃金で働き詰めのバイクタクシーのドライバー達。

日本国憲法では平等を訴えていて、男女差別だとか人種差別だとかたまに騒いでいるがそれどころではなく、生まれた国籍でこうも人の一生が左右されるのかと、この国で生活をしていてそう思う。もちろん、インドも悲惨だったが旅行と暮らすのでは全く観え方が違ってくるわけだ。

 

というわけで、流れに身を任せる事を覚えた私自身の帰国日は決めたので、それまでこちらでの独り生活を謳歌しようと思う。その前に、11月も一時帰国だな。